「SD通信」Vol.1(2020.9.1)
新制作協会/スペースデザイン部情報メールマガジン「SD通信」Vol.1(2020.9.1)
こんにちは、「SD通信」担当の金子です。
9月に入りましたが東京周辺はようやく暑さが収まってきたようです。
皆さんがお住いの地域は如何でしょうか。
毎年9月と言えば、公募作品の搬入と審査、その2週間後には作品陳列を経て展覧会の開催...。
何十年も続いてきたそれらの光景ですが、今年は見ることができなくなりました。
世界中を席巻する新型コロナウィルスによる感染症の拡大は、私たちの当たり前の日常を大きく変えてしまいました。
私たち新制作・スペースデザイン部はこの時に私達のコミュニティを少しでも維持したいと考え、メルマガ「SD通信」を始めることに至りました。
展覧会とは一味違ったこの新たな繋がりが、関係する皆さんの日常や創作活動のささやかなスパイスになることを願っております。
さて、今回からSD部会員たちによるコラム「私を創ってくれた3つの作品」をお届けします。
それぞれの作家の方の記憶に残る、或いはターニングポイントとなる作品を3点選んでいただき様々語っていただきます。
制作への想い、こだわり、当時の思い出、作品の発想のきっかけや技法や素材のことなど、 会員同士でもあまり知らなかったような貴重なコメントが毎回登場いたします。
記念すべき第一回目は雨山智子さんの登場です。
「私を創ってくれた3つの作品」
スペースデザイン部会員 雨山智子
1988年 第52回新制作展出品(W2680×H1400)
初出品、初入選の作品。
大学でテキスタイルデザインを学んだが、デザイナーになるより自分の作品を作り続けたいと考えて、教員になって10年目。
現場が荒れていた時代で公立中学校では日々の仕事に追われて制作する時間と手立てがなく、母校の私立学校に移って少しずつテキスタイルの作品をつくり始めた頃である。
学生時代のような設備も環境もなく、手描きでできる友禅の技法を勉強したり、版画をやってみたりなど迷走していたが、小さなパーツなら家でもシルクスクリーンのプリントができるので、30〜40cmの三角形のパネルを組み合わせた作品をつくることを試み始めた。
やはりプリントの技法が自分にとって一番心地よいと感じたのもこの頃で、それは現在まで継続している。
「ピンクの雨がふっている」というタイトルは、同じ年に南青山のギャラリーでグループ展の当番をしていた時に窓の外の風景からイメージしたものである。
当時は「言葉」と「作品」の関係にとてもこだわりを持っていた。
「空間の作品」という意識より、「自分の作品」を広い場所に展示してみたいという気持ちが強かったのではないかと思う。
写真は別の場所で撮影したものだが、東京都美術館の地下のスペース、煉瓦の壁面への展示で、背景や空間が異なると作品の印象が大きく変わることを実感した。
1996年 新制作協会新鋭作家展出品
前年の第59回新制作展で新作家賞を受賞し、翌年銀座のホリギャラリーで行われた新鋭作家展(現受賞作家展)に出品した作品である。
(会場写真が見つからず、その後設置された北海道の病院の写真。)
受賞した東京都美術館での作品も、長方形のパーツを組み合わせたものだったが、この作品では、小さなパーツを使用しても、画面全体に大きな流れを持つようにしたいと考えて、くの字型のラインやグラデーションがパーツを超えて配置されるように工夫した。
意図を生かした作品になったと思うが、小さなパネルひとつひとつをプリントした布で包んでボルトで組んでいるので、パネルとボルトの分量と重さが難点だった。
1988年の初出品後、仕事や私生活で環境が大きく変わったが、毎年新制作展に出品しなくてはと思うことによって、制作を続けることがようやく定着してきた頃である。
また、作品だけでなく取り巻く空間そのものが作品であるという意識が生まれたのはこの時期だと思う。
モチーフの形態とグラデーションの色彩が、空間に新しい空気感を生み出すようにしたいと強く思っていた。
恵まれた時代で、展覧会会場で公共の場所への制作の誘いや打ち合わせが行われ、その後の制作の仕事へのきっかけとなった作品でもある。
2010年 第74回新制作展出品(W850×H3400)
以前から、スパイラルホールで発表されたテキスタイルのインクジェットプリンターに関心を持っていたが、2005年の個展で初めてインクジェットによる捺染布を使った作品を考えた。
それまで自宅に具象的なプリントをする設備を持っていなかったので、写真をそのまま布地にプリントできることに感激し、それまでの手作業によるプリントと組み合わせた作品を制作した。
技法の面白さに惹かれて次々と作品をつくり、写真を取り込めることから各地方の名所旧跡や風景をテーマにした作品の発注等が続いた。
数年間技法に引っ張られる感じでの制作が繰り返され、少々疲れてきた頃、久しぶりに制作したいものと、出来上がった作品のイメージがぴったりと一致したのがこの作品である。写真撮影の段階で、余白となる部分をどのくらいつくるか、手捺染のグラデーションと連動させるためにどのくらいの陰影を出しておくようにするかなどを意識しないと、思い描く作品にならないことも徐々にわかってきた頃の作品である。(インクジェット捺染は外注)
今でも、時折とてつもなく細かい文様を刷毛で染めてみたくなったり、手の込んだ刺繍などをやってみたくなる。
しかし、プリントというスピード感にあふれ、味わいもなくそっけない質感の技法から、自分なりのイメージを新しく生み出すことができるのではないかと考えることが、制作を続けていく原動力になっているのではないかと思っている。
雨山智子さんプロフィール
1979 文化女子大学卒業
1888~ 新制作展(1995、2003新作家賞受賞)
1993 目黒雅叙園アートプライズ (同1996)
個展 (ギャラリーアメリア / 同2000)
1997 タピストリー新進作家4人展 (織絵ギャラリー)
1998 素材を追って-繊維によるこころみ (世田谷美術館ギャラリー)
1999 個展 (ワコール銀座アートスペース / 同2002、2005)
2000 タピストリー新進作家6人展 (織絵ギャラリー)
第5回国際掌中新立体造形公募展 (吹上ホール)
2003 素材でつくる空間 展 (OZONEリビングデザインギャラリー)
2005 5P 展 (AU HASARD)
2006 5人展—素材との出合い (画廊るたん)
玉川高島屋ショッピングセンター南館エントランスホール作品制作(1年間展示)
2007 テキスタイル展(玉川高島屋ルーフギャラリー)
2010 Reconsider—ファイバーの世界で(千疋屋ギャラリー)
2013 テキスタイルアート・ミニアチュール3 百花百粋(Gallery 5610)
2014 ReconsiderⅡ(いりや画廊 2016同Ⅲ 2018同Ⅳ)
2017 個展(いりや画廊)
2018 TEXTILE WORKS 60 (銀座煉瓦画廊)
新制作協会会員/日本建築美術工芸協会会員
恵泉女学園高等学校、日本デザイン福祉専門学校、東京家政大学 講師
SD通信Vol.1「私を創ってくれた3つの作品」雨山智子編、如何だったでしょうか。
雨山さんの今後の活動予定は以下の通りです。
2020年10月 グループ展(画廊るたん)
2021年 3月 個展(いりや画廊)
◎雨山さんの情報はこちらにも掲載されています。
→ https://www.shinseisaku.net/wp/archives/5130
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次回Vol.2は9/20頃配信予定。五十嵐通代さんのコラムをお届けします。
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